失敗は成功の母。思いもよらないリカバーにより新しい発見もある。枠にはまった作業では出来てこないものが生まれるから。そして材料はまるまるだめになってしまうことのないように、うまくミスを隠すのではなく、あえてミスをデザインの長所に変える価値観を生み出すこと。脳トレにも近いかもしれません。
ただ、ケアレスミスや伝達ミス、未確認のために生まれてしまうミスは痛いもの。
新人さんは自分に自信があると、聞かないで突っ走ってしまい、あとで取り返しのできないごみができてしまいます。指導係がずっとはりついて見張っていないと、ちょっと目を離したすきに、子どもがタバスコをなめたような、大変な事態になります。でもアルバイトの新人のためにずっと見張っている仕事?だと先輩はお仕事にならないことになる。
例えばなまじっか彫金学校に通っている新人君だったとして、OEMのジュエリー業者でCADやキャストなどで量産されたものを研磨した経歴はあったりするケース。
こういう場合、新人君は困ったことに、初心者ではないジュエリー業界の経験者だという意識を持っていたりします。しかし工房でクライアントによってケースバイケースという仕事をしたことがない場合では、新しいジュエリーショップのアトリエでも指示通りにやりさえすれば合格点のもらえる製品が自動的に出来上がると勘違いしているのでしょうか。
どこかに正解の作り方というのがあたかも存在していると思い込んでスタートしているらしい。
経験者も先輩も現在進行形でもっと良い作り方、もっとうまい磨き方、どうやったら細かいところまで道具を使いこなせるか、指導する方だって模索中。ですからお客様には申し訳けないけれど、実は職人も日々進化中なので昨日の作品より今日の方がレベルが高い。今日出来たものよりも明日の方がもっと良いものだったりする。先週の難しいオーダーをこなしたおかげで今週はさらに飛躍的に難易度の高いオーダーに応えているということがあります。
ジュエリーの加工工程はシステム化されているものなどありません。教えてもらえるものは、こういう指輪のサイズでこういう造形ができあがるように道具を使って進めるということ。でもその道具を使いこなすための動かし方、手の力の入れ方、ライトに反射させて自らの網膜で確認する焦点距離、道具と素材との圧力のかけ方。そういった細かいこつは使うひとのセンスにつきる。手順通りやっても違うものが生まれてしまうのがジュエリーの世界です。自分で考えなけれな出来ないのではないでしょうか?「聞かなければ何も教えてもらえないんすか?」
新人君がそう尋ねたら、古くさいと言われても「自分で探すのですよ」と応えます。